第23回杉並演劇祭報告書
令和8年4月17日
第23回杉並演劇祭 受賞団体
【 杉並演劇大賞 】 Tandem
『MANGAの帝国』 作・演出=梅村真也
(シアターシャイン)
杉並演劇祭実行委員会
第23回杉並演劇祭報告
実行委員長 篠﨑光正
趣が異なる演劇が杉並に集結
勢いがあり面白い舞台が競う楽しい演劇祭となった。これがあるから演劇祭開催は行かなきゃ味わえない。アメリカとイスラエルがイランに侵攻した速報ニュースや、ロシアがウクライナに爆撃した映像など、目を覆いたくなる悲惨な戦禍の世界情報の中で、原油価格の高騰や部品調達に奔走するビジネスマンなどのSNS情報が溢れる今現在、生の舞台の演劇に勢いがあることが面白い。かつて、劇場閉鎖や劇団解散、観客席の一列とばしの減客対応、劇場入口でのアルコール消毒、出演者と観客の接触禁止、マスク着用など例を挙げればキリがないコロナ対応からわずか6年で演劇は息を吹き返した。いやまだまだ厳しいんだよ、演劇界は!という声が聞こえてきそうだが、杉並演劇祭は演劇復活を感じる楽しい演劇祭の1か月となった。
第23回杉並演劇祭の最後の報告は杉並演劇大賞である。この栄えある賞に輝いた団体は、
●Tandem「MANGAの帝国」(作・演出:梅村真也・シアターシャイン)
ストーリーは20XX 年。スランプ中の漫画家スズキは、締切前の夜に眠り込み、目覚めると独裁者“ビッグソーリ”が支配する超管理社会イーストエンドに迷い込んでいた。そこでは“漫画”が人々の不満を逸らし、政府への従順を刷り込む道具として使われている。有能な漫画家には快楽が与えられ、反抗的な作品を描けば死刑か強制労働25年。スズキは、この世界で初めて“自分の描きたい漫画”と真正面から向き合うことになる。
「売れ線狙いに走って内容は妥協するか」vs「売れなくても魂の籠った内容を追求するか」という板挟みの中で漫画家/芸術家のプライドが試される作品。描きたいテーマが役者たちの演技をとおしてストレートに伝わる公演だった。売れない漫画家が夢の中でオーウェルの『1984』のような世界に迷い込み、その管理社会では大衆を眠り込ませるような浅い内容の漫画しか許されていないという発想がユニークで素晴らしい。奇を衒った演出に走るのではなく、あくまでも役者の演技をしっかりと見せて、役者の魅力を引き出す演出に好感を持った。(審査員)
プロットがしっかりしているのは梅村氏が漫画の原作を担当する構成作家だからか。やはりストーリーの骨組みがきちんと見えると、観る側としては物語の世界に入って(浸って)いきやすい。そして、政治や経済など硬質なモチーフで人間を描くことを得意とする劇団 JACROW 所属の芦原健介氏が漫画家スズキ役(主役)を演じていることも、この物語に深みを与えている。(審査員)これが旗揚げ公演ということなので、今後の活躍が大いに期待できる有望な新劇団の誕生に拍手を贈りたい。さて、今回、善戦した劇団の中で最後まで争ったのは、
●ワイルドバンチ演劇団「マタ後ノ世モ、巡り会へ-頼朝と義経-」(演出・脚本・殺陣 古田龍 ザムザ阿佐谷)
劇画調チャンバラ劇。源平合戦をもとにした物語には魅力を感じなかったが、殺陣の見事さと台詞を客席に届かせる役者たちの気合いが印象に残った。恐らく公演の稽古以外にも肉体訓練を徹底している団体ではなかろうか。複雑な心理ドラマはないが、見栄を切って客席を睨みつける役者たちに魅力を感じた。叙情的な音楽が流れる中での熱演が光った。(審査員)
この舞台の魅力はなんといっても熱演の迫力で演出・脚本・殺陣の古田龍氏の美学センスが実に美しい。出演者たちのスピード演技も稽古を積んで獲得したこの劇団の魅力のひとつだろう。兄弟を軸にドラマを展開したのはわかりやすかったが、芝居のテンポが一定なので後半からドラマへの集中がとぎれてしまったのが惜しかった。次回を期待したい劇団のひとつである。
●ガラ劇「ファンタスマゴリ4」(作・演出:ガラ林 シアターシャイン)
この劇団は、毎回、演劇的に果敢な挑戦を繰り返していて楽しみな集団だ。さて今回は、会話重視というふれこみで始まったステージだが、そこで展開されるのは、目を覆うような残酷で、しかも究極の人間の交流を描いたブラックでハードな劇だった。しかし、ことさら役者が声を張り上げるのではない。淡々と会話は進んでいく。
白い紙と鏡に囲まれた無機質な空間。この時間も空間も意味を失ったかのような空間は、身体性を失い電脳世界に漂流する現代人を暗示しているかのように見える。そこにうさぎと呼ばれる女がいる。傍らには男。男は完全に女に支配されている。どうやらまともな関係ではない。風俗の女と男客のようなムードが漂う。しかし、女は目を合わせることを禁止している。男も女も無機質な空間で心がうつろな存在として描かれているのだ。 ラストでは、男から女への純粋な愛というものを確かめるために、女は男の指をハンマーで 1 本ずつ折ってゆく。男は苦痛に耐えながら、自らの愛が真に純粋なものかどうか体を張って確かめようとする。このような極端な行動を通してでなければ、心のつながりを実感できないほど、現代人は精神性を失ってしまったのか。観劇しながら、そうであってほしくない方向へ劇は進行していくが、それは作り手の現代社会への絶望を表現しているように思えた。(審査員)
公演は3チーム分かれていて、ストーリーも設定も別々でこれをひとつの作品として審査することはできないので、もしこのような手法を次回も使うのであれば、3作品として申し込んでいただきたい。
●劇団狼煙組「皮肉にも天使」(作・演出:永吉悠人 ザムザ阿佐谷)
前回の杉並演劇大賞受賞劇団に注目が集まった。とても丁寧なつくりの作品だ。現代の若い男女の心のあり様を何組かのカップルのオムニバスで進行していく。街頭で配られたティッシュの広告で集まった男女のコミュニティが基本となる。缶ビールで一見楽しそうにふるまう彼らのプライベート空間では、決して器用とは言えない異性間のやりとりが起きている。その内側と外側を描く演出がよく整理されていて見やすい。若い男女のプライベート空間なので、セックスの話題もコミカルに多数挿入されている。しかし、印象的だったのは、末期がんの闘病中の女性と同棲している男のエピソード。彼女の闘病の苦しみから目を背け、受け止めることができない。そして、ラストでは男は結婚を決意するが、やがて彼女は亡くなってしまう。残された男の心の中では、彼女は天使になったのだろうか。 テーマは決して新しい斬新なものではないが、舞台を最後まで楽しむことができたのは、俳優たちのひたむきな姿勢にある。日常的な対話がメインだが、よくこなして破綻がない。一人一人が魅力的だった。それを引き出した戯曲と演出も評価できる。 ただ、気になったのは、現代の若者の様相がステレオタイプに描かれてしまっているように思えたことだ。今から 4,50 年前の私の若い頃と変わらない親近感がある一方、現代ならではの新鮮さが欲しい気がした。(審査員)
若者たちの群集劇ではあるものの、各々が背負うドラマがどこかで見たことがあるような陳腐でオリジナリティーに欠ける。リピーター客が観客席を埋めていて終演後には感動して泣いている客もいるにはいたが、私は安手な青春恋愛劇に辟易してしまった。現代口語演劇を土台にしつつ、突然大声で叫ぶ演技スタイルをこの劇団の持ち味にしているのであろうが、作品をとおして訴えたいものの掘り下げがあまりに浅いのではなかろうか。また安易な暗転が多いのが気になった。(審査員)
●FEEL STAGE「あなたがいたから」(作・演出:村上隆文 シアターシャイン)
3・11で父親を亡くした次女のセツ子は母親と暮らしている。父親の10周忌に三姉妹が久し振りに集まる。しかし長女の出生の秘密や遺産のこと等で三人姉妹の関係は最悪の瞬間をむかえるが、母の存在と愛情が姉妹の関係を繋ぎ止める。やがて、母はボケてしまうが、三姉妹の絆は深く結び合いお互いを支え合っていく。母というものへの感謝、そして母の愛情に感謝。本も良く役者も各々の役をしっかりこなし、演出も劇場空間をうまく使っていた。(審査員)
●劇団逢「売春捜査官」(作:つかこうへい 演出:浅野鼓由 阿佐ヶ谷アートスペース・プロット)
大絶叫と大熱演の100分間。つか芝居への強い憧れで今の演技スタイルになったに違いないが、私個人は開演間もなく気持ちが舞台から離れてしまった。膨大な台詞を速射砲のように繰り出すのだが、基本的にはフシに乗せて喋っているだけなので人物の気持ちが伝わってこない。芝居の運びが変わらないので、私のように一旦気持ちが舞台から離れてしまうと、再び舞台の芝居に引き込まれる機会がなく、物語を追うことに挫折してしまう。大声で怒鳴り続けるスタイルは普通の一般的な芝居より客席に伝わるものが多いだろうと彼らが考えているなら、大きな勘違いであろう。たしかに良い場面もあったには違いないが、私自身が台詞を追いかけることに挫折した後だったので受け止めることが出来なかった。しかし役者たちの努力は大変なものだったに違いないので、その頑張りは評価するべきかと思った。(審査員)
つか作品への憧れが溢れる舞台で、どんな稽古をしているのか気になった。つかこうへいの後期は独特の雰囲気をつくったが、この舞台はその時代の流れを感じた。しかし、本来つかこうへいは、観客との交流を主体に舞台をつくりたいと、それまでの新劇の静かな客席に対して、どっと笑いが起きる舞台をつくり、それがつかこうへいブームを巻き起こした。当時青山にあったVAN99ホールでのつかこうへい作品の上演は満席の客席が笑いで揺れた。しかし今回の上演時客席には笑いはなかったが、この劇団の狙いはどうなのか、気になった。
●ファントム座「エデン~博士が愛したロボット」(脚本・演出:栗林さみ 游空間がざびぃ)
イマ―シブシアターと呼ぶそうだが、演劇公演というよりは観客参加型のイベント。熱心な中高年男性のファンを持つ集団のようで、若い女性出演者が公演中に彼らに親しげに話しかけていた。観客との会話を取り入れて物語は展開し、作品のエンディングは予め用意された4つの中から、その時の流れに最も相応しいものが選ばれるらしい。通常の台本に依存した公演形態とは異なる試みとしては面白いが、観客とのやり取りが深いテーマに発展する気配は感じられず、「ファンとの交流会」以上のものにはなっていなかったように思われる。ただし熱狂的なファンは満足して帰宅したのではなかろうか。熱心なファンとカンパニーの間の強固な関係性で成り立つ公演は、第三者が審査をする意味は果たしてあるのだろうかと疑問を持った。(審査員)
●西条組 「サスペンス・コメディ⦅殺意⦆ PartⅡ」(作・演出:西条結子シアターシャイン)
舞台はとある高原の高級別荘。別荘の持ち主である本宮徹の妻、千津子がベランダ から転落したことから物語は始まる。当初は単なる事故と思われたものの、警察の捜査が進むにつれて本宮家の不可解な人間関係が徐々に明らかになっていく。果たして、千津子の転落は事故なのか、それとも…。「西条組」は2019年時代劇コメディ「深川ラプソディー」で旗揚げした演劇ユニット。何かとても自由に演劇を楽しんで いる様に感じた。ステレオタイプで結末も大体わかってしまうけれど何故か面白かった。‘本宮徹の母’役の大林弘子さんが都合により声の出演をされていた。つまり出演されているところが全て無対象だった。亡くなっているという設定なので声だけでも成立はするが、母との絡みが多い‘県警の金田刑事’役の長沢和彦さんが、とても自然に演じられていてよかった。 声だけのご出演で正解な感じさえした。演劇文化の裾野を広げる活動、杉並演劇祭がその一役を担っている。(審査員)
●劇団道化師「想」(脚本・演出:白尾俊介 阿佐谷アートスペースプロット)
第一幕 青年が愛する相手にプロポーズしようとしている。しかし彼の愛した相手は「公園のベンチ」だった。第二幕とある精神科医。彼には叶えなければいけない目的があった。とある一人の女。彼女には秘密があった。彼らの目的は違う中、求めていたものは同じものだった。 劇団道化師は、25年ほど前に社会人劇団として旗揚げ、数回の公演を重ね解散したが、主宰白尾氏が最後の劇団として改めて旗揚げした。「温かみのある『想』という言葉が好きで、僕の芝居に対しての思いは『想い』なのかなと思いながら今回の芝居を作りました。『想い』が届き、観てくれた貴方が芝居に少しでも興味を持ってくれれば今回の芝居はそれだけで価値があります。……」と白尾氏は公演リーフレットに書いている。しかし、‘思い’のない『想』は、雰囲気だけ心模様だけの気がする。思考して表現し演劇にするためには両方が揃っていないと、すなわち「思想」がないと成立しないのではないか。漫画を原作にすることが多いらしいが、芝居を作っているにもかかわらず、どこまでも観客側なのではないかと。今回はオリジナルと仰っているが、オリジナリティを見つけられない。目の付け所はいいと思うが、創る姿勢を変えないと何も変わらない。(審査員)
コロナ以降急速に発展しているのが朗読者の参加で今回は4人が朗読を発表している。その方法についても、杉並区内の小または極小空間で10人ほどの観客(聴衆)の前で実演するが、同時にインターネットに公開するので、映像で観る人数は多い。生の朗読としての魅力もありこれからさらに発展しそうなジャンルで、将来杉並演劇大賞受賞も夢ではない。
●「アロエレメンタリー PrimalExpressin―Take:1.駆け込み訴え」(作・太宰治 演出:蘆會 よるのひるね)
●STADARD LINE「reading⦅文学-BUNGAKU⦆(作:江戸川乱歩『押絵と旅する男』 演出:ないとうしげお よるのひるね)
●緊急ルーレット「第16回緊急本公演⦅午後九時の歪んだ奇蹟⦆(作:春井環ニ 演出:ふくおかかつひこ 西荻窪シネマ準備室)
●月に磨く幻燈の朗読室「人間椅子」(作:江戸川乱歩 演出:梅井ゆえ 喫茶天文舘)
●月に磨く幻燈の朗読室「人間椅子」(作:江戸川乱歩 演出:梅井ゆえ 一冊本屋青い小窓)









第23回杉並演劇祭募集要項
杉並演劇祭の参加団体募集の季節が到来しました。
今回で23年目を迎え、東京23区の中でただ一つの区内全域を対象に開催する、杉並演劇祭は、区内の各小劇場とともに、若手演劇人の育成と区内演劇公演の活性化に努めます。多くの演劇団体の参加を願っております。さらに期間内に上演された舞台作品の中から、厳正なる審査により最優秀作品を選抜し、杉並演劇大賞を授与します。受賞団体には我が国の演劇界に貢献していただきます。感動する舞台が上演されることを期待しています。
(令和7年9月10日より受付開始)
第23回杉並演劇祭参加団体規約
| 期間: | 令和8年3月1日(日)~31日(火) (但し実行委員会が承認した公演に限り期間外参加を認める。) |
|---|---|
| 会場: | 杉並区内の演劇祭提携劇場、その他区内の劇場、および上演可能な場所。 |
| 特典: | 参加する団体・個人を対象に最優秀作品に杉並演劇大賞を授与。 副賞10万円 |
| 目的: | 1.演劇界に将来貢献すると思われる次世代の才能を発掘するため。 2.杉並区内の演劇活性化。 3.「杉並演劇大賞」を創設し、最優秀作品に授与。 |
| 審査: | 杉並演劇祭期間中に上演される参加団体の演劇作品を審査委員会が上演審査 およびビデオ審査により選抜する。 |
| 審査委員長: | 篠﨑光正(杉並演劇祭実行委員長) |
| 特別名誉顧問: | 石澤秀二 |
| 審査委員: | 石石澤秀二・湯澤紀保(俳優)・執行佐智子(俳優)・篠本賢一(遊戯空間代表)・森井睦(ピープルシアター主宰)・安延洋美(制作)・桑原秀一(劇団JAPLIN)・中野志朗(演出家) |
| 条件: | ①杉並演劇祭に参加を申込み、杉並演劇祭実行委員会に承認を受けた団体・個人。 ②上演終了後令和8年4月1日(水)までに上演舞台の記録映像データを 杉並演劇祭実行委員会に提出。 ③参加する団体または個人は、劇場または会場に審査員席を確保提供。 ④杉並演劇大賞受賞団体および個人は、杉並演劇大賞のマスコミ取材などに対して、 データ提供など杉並演劇祭実行委員会に協力。 |
| 申込: | 参加を希望する団体及び個人は、参加申込書をダウンロードし、必要事項を記入して杉並演劇祭実行委員会に送信すること。(2025-11-30締切) (Email:engekisai@oregano.ocn.ne.jp FAX:03-5374-8897) |
| 特典: | 杉並演劇祭提携劇場で上演する場合は、劇場費の割引を受けられる。 |
| 承認: | 申込書および添付資料の到着後、1~2週間以内に判定結果を送付。なお提携劇場 を使用して参加する場合は、提携劇場の承認があれば演劇祭参加を承認。 |
| 杉並演劇祭 実行委員会: |
実行委員長 篠﨑光正 |
| 事務局: | 〒168-0072東京都杉並区高井戸東1-20-7 シノザキスタジオ内 杉並演劇祭実行委員会事務局 電話:03-5374-8898 FAX:03-5374-8897 |
| 問合先: | Eメール engekisai@oregano.ocn.ne.jp |
杉並演劇祭実行委員会